このシリーズの他の話は建物と路地を扱った。今回は人を扱う。だから慎重に書く。
まず地理から
JRと南海が交差する新今宮駅を基準に見ると方向が整理される。東には通天閣とジャンジャン横丁のある新世界が、南にはあいりん地区 — 釜ヶ崎とも呼ばれる一帯 — がある 事実。徒歩数分の距離に性格のまったく違う二つの街が接している構造だ。
働きに来た人々の街
あいりん地区は日本最大の日雇い労働者の街として知られてきた 事実。1960年代以降、労働者と警察の衝突が繰り返された歴史があり 事実、近年は労働者の高齢化にともなって福祉中心の街へ変わってきた 事実。つまりこの街の課題は過去形ではなく、年老いた人々がいま暮らしている現在形である 推定。
2022年4月
そして変化が来た。2022年4月、星野リゾートがこの一帯に大型都市観光ホテルOMO7大阪を開いた 事実。これを機に家賃と地価の上昇を懸念する声が出た 事実。立ち退きは強制退去だけで起きるのではない — 住む人の構成が変わることで既存の住民が居心地の悪さを感じ、自ら去っていく形でも起きるという指摘が併せて示された 事実。
ただしもうひとつ
この事例を単純なジェントリフィケーションの話としてだけ片づけると、事実の半分を落とす。このホテルは25名規模のOMOレンジャーを置き、地域の飲食店と商店を細かく調べて客をそちらへ案内する方式を採った 事実。観光の金が地域の商いを迂回せず通過するよう設計しようとした試みである 推定。その試みが実際に機能するのか、そしてそれで十分なのかは、まだ開かれた問いだ 推定。
同じ問いの三番目の失敗の形
このシリーズが通ってきた都市はすべて同じ問いを通過した — 働く古い街の次の層は誰が決めるのか 推定。大稻埕は再生がうまくいきすぎて賃料が上がり本来の業種が押し出される側であり、仁川は再生したのに埋める人が来ない側だった。新世界・西成は三番目である — 観光が来つつあるのに、その場所にすでに最も弱い立場の人々が住んでいる 推定。建物の問題でも空室の問題でもなく、人の問題だ。
旅行者の立ち位置
だからこの話の結論は他の話より単純である。あいりん地区は観光名所ではなく、人々が暮らす街だ 推定。見に入ったり住民を撮影したりしないことが基本であり、この地域を刺激的な見世物として紹介するコンテンツを真似しないほうがよい。逆に、新世界で金を使うときチェーン店より第6・7話の古い店を選ぶことは、この街に残る取り分を増やす側に近い 推定。